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大分地方裁判所 昭和32年(ワ)160号 判決 1957年12月16日

原告 吉島産業株式会社

被告 国

訴訟代理人 鏡正巳 外一名

主文

訴訟費用は原告の負担とする

原告の請求を棄却する。

事実

一、原告は「被告は原告に対し金十五万三千二百三十四円及びこれに対する昭和三十年七月二十一日以降右完済まで年五分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。

(一)  被告は原告が昭和二十七年度法人税十三万二百四十円、同加算税六千五百円、昭和二十八年度法人税十三万二千百三十円同加算税一万五千六百二十円、昭和二十九年度法人税二十五万七千三百三十円、同加算税一万二千八百五十円及び昭和二十九年度源泉所得税一万一千六百円、同加算税二千七百五十円の滞納ありとして滞納処分をなし、昭和三十二年四月十八日原告の株式会社大分銀行に対する普通預金債権金十五万三千二百三十四円の差押えをなし同月二十日これを取立徴収した。

(二)  しかしながら原告はこれら国税に滞納はなかつたのであるから、被告は右徴収金員を不当に利得したものである。

(三)  よつて右金員及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降右完済まで年五分の割合による金員の支払を求める。

二、被告は主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり陳述した。

(一)  被告が原告主張の日に原告主張の債権につき滞納処分をなし原告主張の日原告主張の金員を取立徴収したことは認めるも原告の昭和二十九年度法人税のうち滞納分本税金二十五方七千三百三十円及び同過少申告加算税金一万二千八百五十円につき取立徴収したのであつて原告主張の国税とは相違する

(二)  原告主張のその余の点は争う。

三、原告は被告の主張に対し原告に対する昭和二十九年度法人税課税処分並びに滞納処分は次の事由により無効である。と述べた。即ち

(一)  原告は被告主張の法人税を課せられるべき所得なかつたに拘らずなされた課税処分であるから無効である。

(二)  右課税処分は原告の提出した青色申告に対する昭和三十二年二月二十七日到達の更正決定によりなされたものであるところ、

(イ)  青色申告に対する更正決定は原告の作成した諸帳簿、書類を調査し、誤謬を確認した場合に限りなすことができるものであるに拘らず、右の調査をなさず、かつまた何らの理由を付しないで本件更正決定がなされているから無効である。

(ロ)  納税者の申告を更正する場合は申告者と話合いの上、申告者の納得のいくまで説明指導すべきであり、原告以外の申告者に対して右の取扱がなされているに拘らず、ひとり原告に対してのみかような取扱がなされていないから右更正決定は憲法第十四条に違反し無効のものである。

(ハ)  右更正決定をなすに当り干与した関係官吏は原告の不知の点なきよう指導すべきであるのにこれをなさずして右更正決定がなされているから国家公務員法第八十二条第八十四条刑法第二百二十二条に該当する無効のものである。

(三)  右更正決定に対し原告は昭和三十一年三月二十八日審査請求をなしたものであるところ、

(イ)  審査請求後三ケ月を経過したときは更正決定はその効力を失うのであるから右更正決定は無効に帰した。

(ロ)  また審査請求に対する何らの処分なき間は滞納処分は中止すべきであるから、本件滞納処分は違法であり無効である。

四、被告は原告の主張に対し次のとおり反駁した。

(一)  原告は昭和三十年二月二十八日昭和二十九年度所得を七万五千七百円これに対する税額三万一千七百九十円なる旨の確定申告書を大分税務署長宛提出したのであるが、右所得は六十八万八千四百円が正当であるので更正決定をなしたのである。

(二)  原告は昭和二十九年度事業所得について青色申告書を提出しているが、原告がこれよりさき昭和二十七年度事業所得について昭和二十六年十二月二十一日提出した青色申告承認申請に対する承認が昭和二十七年七月三十一日取消されており、その後青色申告承認申請は原告より提出されていないから、その後なされた右昭和二十九年度青色申告書提出も青色申告とはならない。尤も右青色申告承認取消通知は昭和二十六年一月一日提出の申請書につき取消す旨なされたが右は誤記したものである。

五、原告は被告の反駁について次のとおり抗争した。

原告の昭和二十七年度青色申告承認取消は昭和二十六年一月一日申請のものについてなされたものであるところ、原告は昭和二十六年十二月二十一日始めて青色申告承認申請をしたのであつて昭和二十六年一月一日申請した事実はなく、したがつて被告主張の承認取消は何らの効果なく、原告の提出した承認申請については当該事業年度開始の日から六ケ月の間に承認又は却下がなかつたから承認したものとみなされるべきであり、昭和二十九年事業年度申告も青色申告として取扱われるべきものある。

尤も右承認取消通知を受けた後青色申告承認申請をした事実のないことは争わない。

六、証拠関係<省略>

理由

一、被告が原告主張の日に原告主張の債権について滞納処分をなし原告主張の日に原告主張の金員を取立徴収したことは当事者間に争いのない事実である。

二、原告は右滞納処分をなされるべき滞納国税なく、右滞納処分は無効であると主張するのでこの点について判断する。

成立について争のない乙第六、第七、第九、第十一、第十二号証に前記争のない事実及び弁論の全趣旨を綜合すれば原告は昭和三十年二月二十八日大分税務署長に対し昭和二十九年一月一日より同年十二月三十一日までの所得金額を七万五千七百円これに対する法人税額を三万一千七百九十円とする旨の確定申告書を提出したところ、同税務署長は調査の上昭和三十二年二月二十七日所得金額を六十八万八千四百十四円これに対する法人税額二十五万七千三百三十四円過少申告加算税一万二千八百五十円と更正決定し課税処分をなし、次いで前記のとおり原告主張の国税滞納金額を徴収するため差押をなしこれを取立右昭和二十九年度法人税に充当した事実が認められ右認定に反する証拠はない。

そこで原告の主張する無効事由につき次に順次検討する。

(一)  原告はまず被告の主張する所得はないと主張する。

しかしながら更正決定をなした所得金額に誤謬があつたとしても右更正決定は取消し得べき瑕疵にとどまり無効とすることはできないから右の主張は理由がない。

(二)  次に原告は右更正決定は原告のなした青色申告に対する更正決定であることを前提として無効事由を主張する。

しかしながら被告が原告のなした昭和二十七年度青色申告承認申請に対する承認を昭和二十七年七月三十一日取消し、その後原告が青色申告についての承認を得た事実のないことは当事者間に争いのない事実であるから、原告の提出した前記昭和二十九年度分申告は青色申告としての取扱を受けるべき筋合いのものではない。尤も被告のなした右取消通知は昭和二十六年一月一日申請に対する承認を取消す旨の書面であつたことは被告の自認するところであるけれども、原告も自陳するとおり昭和二十六年十二月二十一日に始めて原告は青色申告承認を求めたのであるから、右の取消通知は誤記と認めるのが相当でかかる誤記は承認取消を無効とすべき事由ではない。

したがつて原告の青色申告であることを前提とする無効事由の主張はすべて採用しがたい。

なお原告は更正決定をなす関係官吏の説明指導不親切を主張し無効事由とするが、かかる事由は単に青色申告の場合に限らず行政運営上の当否に関するもので無効原因とするに足らないこと明らかである。

(三)  さらに原告は右更正決定に対する審査請求申立後三ケ月内に何らの処分なきときは当該更正決定は失効すると主張するけれども、かかる主張を採用するに足る法令上の根拠はない。また審査請求中は滞納処分は中止さるべきであると主張するけれども、審査の請求は税金の徴収滞納処分の続行を妨げるものでなく、滞納処分を中止しなかつたからといつて無効とすべきものではないから右の主張も理由はない。

三、以上のとおり原告の主張する無効事由はすべて理由がなく、他に本件課税処分滞納処分を無効とすべき理由はないからこれが無効を前提とする原告の本訴請求は失当として棄却すべく訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 綿引末男)

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